我が心、本日も晴天なり

保守の補習時間

共産党宣言「家族制の廃絶!」を実行したソビエトの末路

 家族制の廢絶! 共産主義者のこの不名譽な提案に對しては、最急進派の人々すらも憤激する。
 しかし、現在の家族制度、ブルジョアの家族制度はいかなる基礎の上に立つてゐるか。資本の上、私收入の上に立つてゐる。完全に發達したこの家族制度は、ただブルジョアジーの間にのみ存在してゐる。そしてプロレタリヤの強制的無家庭と、公娼制度とが、その補足物になつてゐる。
 ブルジョアの家族制は、もとよりこの補足物の消失とともに消失する。そして兩者とも、資本の消失とともに消失する。

堺利彦訳 幸徳秋水訳 共産黨宣言 カール・マルクス フリードリヒ・エンゲルス

 上記が、共産党宣言が家族の廃絶を謳った部分の冒頭です。共産党宣言のように倒錯(逆さまになった)した文書を読むときは、「そもそも前提が完全に間違っているのでないか」という疑いを持って読み進めることが不可欠です。

例えば「家族制の廃絶!」から始まる上記の部分は、

私たち共産主義者は、「家族制などなくしてしまえ!」と一見評判の悪そうなことを言うし、それはいわゆる「進んでいる」と言われる人たちも反対する。

しかし今の資本主義的家族制度は、十分な収入のある人だから成り立っている。そんな(家族を持つ)ことができるのは金持ちだけではないか。貧乏な労働者が家族を持てず、風俗で欲求を満たしているので、金持ちは家族が持てるのだ。

金持ちの家族制度は、貧困者と風俗がなくなれば立ち行かなくなる。そして、資本主義がなくなれば必然的に金持ちの家族制度も貧困者も風俗もなくなるのだ。

 という具合に、実際には単なる「世迷い事」が書き連ねているだけです。

しかし上記の文章のような、「政府が悪いから生活が厳しく、結婚も子育てもできない」という主張は、今日の日本にも少なからず存在しています。世界第三位の経済大国ですら、「生活に苦しくて結婚できない」と言う人がいるのです。日本より貧しい、はるかに貧しい国でさえ、家族が存続しているというのにも関わらず。

共産主義ブルジョワvsプロレタリアートという対決の構図は、ある種の人間のコンプレックスと強固に結びつき、現実を見ることをやめて闘争こそが正義というを信念を生んでしまいます。資本家vs労働者、貴族v庶民、そしてフェミニズムジェンダーフリーにおける男vs女の構図も同様です。人が共産主義に傾倒する現象については、心理学的側面から研究されるべきでしょう。

さて、共産党が権力の座についたソビエトは、共産党宣言に従って「家族の廃止」に手をつけます。1917年のロシア革命直後から、

①従来、法律婚の要件とされていた教会での結婚式を不要とし、役所での登録だけで婚姻の効力が生ずるものとした。

②離婚の要件を緩和し、当事者合意の場合はもちろん、一方の請求だけでも裁判所はこれを認めることとした。

③犯罪であった近親相姦、重婚、姦通を刑法から削除した。

④堕胎は国立病院で認定された医師の所へ行けば可能となり、医師は希望者には中絶手術に応じなければならないことになった。

⑤子どもたちは、親の権威よりも共産主義のほうが重要であり、親が反動的態度に出たときは共産主義精神で弾劾せよ、と教えられた。

⑥最後に、一九二六年には、「非登録婚」も「登録婚」と法的
 に変わらないとする新法が制定された。

JOG(006) Fact Finding と Logical Thinking

 というように結婚を形骸化させていき、最終的には⑥のように法的婚姻と同棲、事実婚の区別をなくしました。

法的婚姻には様々な制約があり、「婚姻届けなんて紙切れに過ぎない」と言う人もいます。しかし実際には、法的婚姻をなくしてみて初めて、それが何を守っていたかを身をもって知ることになるのです。

彼らが予想もしなかった有害現象が同時に進行していた。一九三四年頃になると、それが社会の安定と国家の防衛を脅かすものと認識され始めた。すなわち、

①堕胎と離婚の濫用(一九三四年の離婚は三七パーセント)の結果、出生率が急減した。それは共産主義国家にとって労働力と兵力の確保を脅かすものとなった。

②家族、親子関係が弱まった結果、少年非行が急増した。一九三五年にはソ連の新聞は愚連隊の増加に関する報道や非難で埋まった。彼らは勤労者の住居に侵入し、掠奪し、破壊し、抵抗者は殺害した。汽車のなかで猥褻な歌を歌い続け、終わるまで乗客を降ろさなかった。学校は授業をさぼった生徒たちに包囲され、先生は殴られ、女性たちは襲われた。

③性の自由化と女性の解放という壮大なスローガンは、強者と乱暴者を助け、弱者と内気な者を痛めつけることになった。 何百万の少女たちの生活がドン・ファンに破壊され、何百万の子どもたちが両親の揃った家庭を知らないことになった。

JOG(006) Fact Finding と Logical Thinking

 

また、保守思想の第一人者である中川八洋はこう言います。

この家族制度の廃止は、凄まじい数の重婚とレイプに大洪水となった。当たり前ではないか。事実婚になれば、モテる男はとっかえひっかえ若い「妻」を二十~三十名持つことができる。若さと性的魅力を失った女性はことごとく棄てられる。また、レイプと、短期間の事実婚と法的に区別することは困難である。

このレーニンの史上最悪・史上最愚の実験によって逆に判明したのは、法律婚や慣習の儀式を経た婚姻こそが、”女性を守る”ことを第一の目的として、自主的に発展してきた人類最高の智慧に基づく制度であるということであった。

『国が滅びる』中川八洋

 「なくなって、初めてわかる伝統・慣習の意味」。

現代人が短絡的に意味がないとか、時代に合わない因習だとか思っても、実はその慣習に「思いもよらぬ利点」が潜んでいることがあります。「慣習には人類の知恵が隠されている」と考え、またその知恵の全貌を知ることは困難と考える。だから短絡的な変革や合理化を避ける。この考えを保守思想と言います。

古い制度を完全に変更してよりよいものに替えるべきだという考え方は、すぐに棄てるべきである。『英国憲政論』ウォルター・バジョット

 

そしてソビエトは、あまりの社会崩壊ぶりに手を焼き、レーニンの教えの方針転換を余技なくされました。

 

かくして、数千万人の自国民の殺戮をしたあの残忍なスターリンですら、1934年頃から1944年にかけて、この犯罪の余りの激増に懲りて、家族破壊を聖なる正義と見なしたレーニンの法令を、レーニンの忠実なる後継者でありながら廃止して、婚姻関係の法令をほぼ皇帝(ツァーリ)時代のものに戻してしまった。

『国が滅びる』中川八洋

 

このように、レーニンによる「家族廃止の社会実験」は歴史の残る大災厄となりましたが、あまり日本では知られていないようです。結婚や家族の価値を貶めようとする左翼にとって、「最も都合の悪い歴史」だからだと思われます。